[対談 書と感性-第1回-]

掲載:2005/5/24

聞き手:松里 鳳煌(也太奇代表) 語り手:野尻 泰煌

原稿:書藝要説第十七号より抜粋

※也太奇代表が、4月に書道鳳煌会立ち上げにつき凰山より鳳煌(ほうこう)に改名いたしました。

 

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 書をたしなむということはどういうことであろうか。書をたしなみながらも私にとっては長年の謎であった。恐らくそれは世間でも謎であったと思う。意味を見出そうとしすると誰しもが首を傾げるに違いない。恐らくは、学校で「書」を教えている先生も、その先生を教えた先生も理解していないに違いない。だから、書道の時間というのは学校の授業でも異質、異空間だったのだ。誰しもがわからずに、ただ筆をはしらせるからだ。
 書をたしなむとは、書を鑑賞するとは、人にどのような影響をもたらすのだろうか。今回の対談シリーズを読むと、その大いなる影響を知ることになるだろう。 鳳煌
 

鑑賞するということ


鳳煌「鑑賞すると言いますが、実際には鑑賞とはどういうことですか。こと書に到っては特に難しと声を聞きますが」


野尻「それは本来人間が持っている感覚力だけで、書を捕らえようとするからだよ」


鳳煌「感覚力とは、つまり単純に作品を見て何かを感じるということですね。『線が素晴らしい』とかいう表現ですね」


野尻「そう。そしてそれだけでは書はわからないと思うよ」


鳳煌「何が必要なんでしょうか」


野尻「本質が見極められる力が兼ね備わって、初めて書がわかってくる」


鳳煌「それがないとわからないのですか」


野尻「本音を言うと、土台無理だね。判断する力だよ」


鳳煌「本質というか、見極める力がいると?」


野尻「スラスラと表面を撫で回すような見方では駄目だ」


鳳煌「感性を働かせると?」


野尻「感性にも、醸成されているものと、産まれっ放しのものがあるよ。ある程度、体験によって把握する中で、ある種の年の積み重ねによってついてくる。色々と感じてくるんだ。芸術作品を鑑賞・洞察する力が出来ると言われている。まぁ、実際はそんなに簡単な話でなないでしょうけど」


鳳煌「といいますと」


野尻「鑑賞する側が、作者の高身に達しない限り、本当のところはわからないと思うよ。でないと、『凄いけどなんだかわからない』っていう感想になるんだよね」


鳳煌「どういう鑑賞はよくないのでしょうか」


野尻「まず、パッと見るでしょ。間があって、理屈で書を語る人は、わからない人だと思うよ」


鳳煌「先日の話とも関わってきますが、理屈が作用するようではいけないと」


野尻「いけないというか、大したことないね。理屈で誤魔化してしまうから」

 

 

書をたしなむということ


鳳煌「書はある程度やっていなければ実のところ評論家ですらわからないとおっしゃりますが、では書をやるにつけ、何がわかるようになるのですか」


野尻「まずバランス感覚がわかるようになるね。均衡とか、均整とか、整斉といわれるものがそうだね。古来からの名跡は、極めて絶妙なバランス感覚がある。至高といっていいよ」


鳳煌「バランスの美感というのは、時代感覚によるズレの影響はないのですか?」


野尻「いや異なってくるね。ただ、最高のバランスはいつの時代も最高だよ。書の目的の一つに、最高のバランス感を体感することがあるね。その前に大切なのが、『見る』ということ。状況を把握する力だよね」


鳳煌「前回の焦点でありましたね。まずは『見る』・『見ることが出来る』ということですね。では、次に『バランス感覚を会得する』ということでしょうか」


野尻「そうだね。会得するには、まず『体感』するとうことが来るけどね。もっと言うと、それは同時に進行しているんだけどね。バランスを体感するには、見えていないと始まらない」


鳳煌「具体的にはどうするとよいのでしょうか」


野尻「臨書だね。名跡をまず見る。そして真似て書くということ。ただ、どうしても似ない。似てないことがわからないようじゃ困っちゃうけど(笑)。そもそも似るはずがないんだよね。名品相手で、それを書いたのは稀代の天才だ。でも、似せようとする。違うから、どうして違うんだろうと細部を見ようとするよね。そして再現しようとする。すると、似てる、似てない、似てる、似てない、この判断の繰り返しでもあるよね。結果として、自己の感性がフル回転するんだ」


鳳煌「すぐ実用的な話をしちゃうんですが(笑)、何か普通に役立ちそうな能力ですね」


野尻「事実そうだね。まず、直観力、洞察力、判断力が養われるよ。しかも、それが自然とね。もっと言えば、 総合的に物事を把握する力が培われるね。研ぎ澄まされていくんだ」


鳳煌「凄いですね(笑)」


野尻「冗談やおためごかしじゃないよ。明治の教育における基本は書なんだから」


鳳煌「そういえば、嘗てのお偉方って決まって書人でもありましたね」

 

つづく

 

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