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[対談 全き素直さで対象物の真体を把握する.-第2回-] 掲載:2004/8/23 聞き手:松里 凰山(也太奇代表) 語り手:野尻 泰煌 原稿:書藝要説第十六号より抜粋
* 素直さで対象物を把握するということ
野尻「そうだよ。いいなーとは思えても、毛穴が逆立つほどの感動は得られないでしょう。だから、民謡なんか聴くと違うね。民謡は、ダサイとか古いとか言われ、近代かるんじられて来たけど、日本民謡は凄いよ」 凰山「日本民謡ですか。個人的には、あの暗い歌詞がどーも」 野尻「歌詞は詞であって曲とは違うよ。歴史を紐解くとね、モーツァルトだって、お父さんとオーストリーの地方を色々とまわって、自国の民謡をベースにしたんだ。彼は民謡で音感を育んだんだよ」 凰山「そうなんですか」 野尻「だから、彼の曲にもそうした影響がでてるんだよ。どこの作曲家にしても自国の文化のうえに存在している。日本ぐらいだよ、捨て去ろうとしているのは」 凰山「としたら、日本は・・・やはり民謡ですか」 野尻「そうなんだよ。一番体質に合うものは何か。としたら、やっぱり日本民謡なんだよ。もし、日本民謡を曲として感じて、虫唾が走るとしたら相当現代の何かに洗脳されて、感が鈍っている証拠だね。それは感性が知によって歪められたことを意味していて、大変なことだよ」 凰山「つまり、感じる前に頭が、思考が、働いてしまっているってことですよね」 野尻「そうだよ。近頃の日本は、原点回帰じゃないけど、太鼓などが流行ってきてるよね」 凰山「そういう意味では、本来あるべき姿に向かっているといえるのですね」 野尻「ところが、果たしてそうだろうかと思うことがあるよ」 凰山「え?どういうことですか」 野尻「欧米の先入主が根本にあって、本来の太鼓じゃなく聴こえてくる。これは全く違うよ」 凰山「それって、ドラムってことですか?」 野尻「そう!ドラム的なものの上に和太鼓がある。だから律動がドラム的にはやいでしょ。速度、強さ、イコール凄いという小手先の見せ方しかしていない。和太鼓を使用してて演奏するのはいいんだけど、根本がいただけないね。どこか叩き方が完結的な感じがしてくる」 凰山「本来の和太鼓はどうなるのですか」 野尻「強さの上に、遅さ、間合い、というのが真骨頂でしょ。太鼓の叩き方で生まれ育ちがわかるらしいよ。それほど深いもんなんだよ。太鼓に限らず、今はまず知識があって、それが邪魔になって美を直に把握できなくなっている。遅さ、間合いの妙が足りないと思うね」 凰山「先生の仰る、先入主の弊害ですね。感動あってこそ後の知識。行動してこそ後に知識ですよね」 野尻「そう。先入主は美にとって大敵だからね。まぁわからなくなるだろうから省くけど、一方ではその先入主が美をつくる場合もある」 凰山「え・・・その件はここで言及すると混乱しそうですね」 野尻「頭が固くなっていると振り回されるよ(笑)。なんであれ、見るとき、聴くとき、観賞っていうのは、分別を差し挟む時がないほうがいい。ところが現代人は、知で何かが出来ると勘違いしている」 凰山「なるほど。それで先生は、書展にしても本来は、名前も読みも意味も何も掲げたくもないというわけなんですね」 野尻「いらないよ。釈文を読んで何がわかるんだい?書の鑑賞において釈文や意味なんて関係ないと言ってもいいよ。音楽を聴いて、その詩いいよねーって言うようなもので、音楽は音楽、詩は詩だよ」 凰山「先生の泰永書展は、名前だけは掲げさせてもらってますけど。先生の仰りたいことはわかりますし、その通りだと私も思いながらやってます」 野尻「聴いたり、見たりする力っていうのは、知る力よりも多くを識るって言えるよ。ものの真体を見るには先入観をなくして『全き素直さ』で見る・感じる、これにつきるね」 凰山「ここで、氏の仰る『全き素直さ』ですか」 野尻「だから凄いんだよ。そのまんまの対象物を把握すること。その為には、先入観をなくして、対象物を捕らえる段階が必要なんだ。一時的には対象物と伯仲するぐらいの技術力は通過しないとね」 凰山「通過点・・・それだけでも並では出来ないですよね」 野尻「並では出来ないという先入主を捨ててやるんだよ。出来るんだから」 凰山「通過後はどうなるんですか」 野尻「次の段階は、その対象物を煮詰めていく方向をとること。つまり、対象物に捕らわれるだけ捕らわれる。(笑)そして、ここで先入観をもって臨む。それが成心だよ」 凰山「精神?成心ですか、なんですかそれ」 野尻「さっき話した、一方では先入主が美を作るということ」 凰山「ふむ」 野尻「まーその前に『全き素直さ』が肝心だけどね」 つづく
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