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[対談 全き素直さで対象物の真体を把握する.-第1回-] 掲載:2004/7/22 聞き手:松里 凰山(也太奇代表) 語り手:野尻 泰煌 原稿:書藝要説第十六号より抜粋
* 血液的美感
凰山「氏の何にそこまで感銘を受けたのですか? 野尻「何にというより、何を確認したかというとね。『まったき素直さ』の一言につきるね。こんなことを言うとおかしいけど、この作曲家はまともに音楽が聴ける才能をもった方なんだ」 凰山「え?随分と大胆な発言ですね。素直さ?ですか」 野尻「何故と思うだろうけど、私はそう感じたよ」 凰山「どういう部分にそう感じたのですか?」 野尻「音の真体が聴けるといったらいいのかな。氏の凄いところは、自分の音がちゃんとあること」 凰山「具体的には、どういうことですか?」 野尻「こういう音が好きだということが、若い頃からわかっているということかな」 凰山「うん?パッと聞くと当たり前のように聞こえなくもないですが。まぁちょっと横に置いておいて、具体的には誰を好きだったんですか」 野尻「氏が触発された作曲家には、ファリア、ラベル、ストラビンスキーがいるね」 凰山「ストラビンスキーはロシアの作曲家でしたっけ。その好きな、触発された作曲家の音楽を、素直に受け止めた。それが凄いと?」 野尻「なんていうのかね。彼らの音を素直に受け入れ、好みの音を自然の内に把握できた。それが凄いんだ」 凰山「それがどう凄いんですか?」 野尻「自己の中の血にまどろんでいる東洋的音感で、『私どもに近い音感』を結果として引き出したところかな。これから作曲を創造していく上での素材探し、自分の感性にひっかかったもので勝負したというか。これを一言でいうと『自己の音感に忠実だった』となるんだ」 凰山「んーもっと詳しく」 野尻「例えば、ストラビンスキーの春の祭典のはじめの頃の律動だよ。氏も、我が意を得ていると言ってるね。私もやっぱり同じ箇所で感動するよ。氏は、ロシアの作曲家に東洋的な臭いがすると直感で思った」 凰山「ロシアに東洋的な臭いですか。ロシアと日本には何か血的なつながりがあったとか」 野尻「ロシアは何世紀かに渡って蒙古の支配だったんだ」 凰山「そうなんですか」 野尻「だから蒙古の血液的混合があったのは間違いないよね。それが血液的美感につながるんだ」 凰山「当然、日本も蒙古の血が混ざっているわけですからね。ということは、音感と民族の血液的な何か、これは相当な部分で影響を及ぼしている可能性があると・・・」 野尻「間違いなく比重は高いだろうね。ファリアにしてもそうだよ。彼はスペインの作曲家なんだけどね」 凰山「やはり歴史的な裏づけが?」 野尻「あるね。スペインはサラセンの支配下だったから、これも東洋の血液的混合があると言える。だから、スペイン人にも、そうした血液的美感が日本と類似するものがあるんだ」 凰山「ということは、他の作曲家も」 野尻「そうだよ。ラベルにしても、更に言うならサティーの曲にしても、我々の音感のどこかに触れてくる要素を感じるね。フランスはスペインの隣だし」 凰山「歴史的に色々あったんですか」 野尻「東洋の血が混ざっているフン族(トツケツ)という一族が、東ヨーロッパに遠征したようだよ。そこでフランスと一戦交えているというからね」 凰山「当然、一戦しただけでは混じりませんよね」 野尻「そりゃそうだ。そこで戦うということは、現地でそうしたことが行われているっていうことさ。過去の歴史が証明しているよね。また、日本主義をいち早くキャッチした国はフランスなんだよ」 凰山「そうなんですか。でも、それは単にフランスが芸術に対して振興が深いからというのでありませんか?」 野尻「ん〜例えばだよ、秋田美人ってどこか日本人ばなれしていると思わないかい?」 凰山「え、いきなり秋田美人ですか。(笑)う〜ん、どういう人を秋田美人というのか見たことないのでわからないですから」 野尻「秋田美人て言葉はしってるでしょ」 凰山「はい、それは知ってます。美人の代名詞ですよね」 野尻「そうなんだよ。実はこれも事実と符合しててね」 凰山「えーっ、また血液的なあれですか」 野尻「生粋の秋田人のDNAには、フランス人の血液が混じっているという検査データがあるらしいよ」 凰山「えーっ、本当に」 野尻「それも生粋の秋田人だけに見られるらしい。ひょっとして、秋田民謡とフランス音楽に何か共通点があるかもね。(笑)」 凰山「にわかには信じられないですが、ま〜美人の代名詞でしたからね〜、何かそういったものが関係してるんですかね」 野尻「先日もさ、写真家の昌立さんにその話をしたら、写真家の木村伊兵衛さん(故)は、秋田とフランスを現場に仕事していたって言っていたよ」 凰山「ところで、フランス以外ではどうなんでしょう」 野尻「書展は世界各国で開催されているんだけどね、ロシア、スペインでも大盛況だったらしいよ。その反響たるや、書展を開催した日本側が驚くほどだから」 凰山「ドイツとかで開催したらどうなるんですかね」 野尻「その辺りは知らないけど、彼らにはわからないんじゃないかな」 凰山「血液的なつながりが無いからと。つまり、血液的美感、音感が無意識のうちに働いているんですか」 野尻「そうなるんだよ。そもそも、ここ百年少々文化の流通が盛んになったといったって、全体からすればたかが知れてる。脈々と続く血液的美感は遥か以前からのものだからね。だから日本人は日本の伝統の中で美を感じるようになっているんだ。氏はそれをわかったんだね。だから、それを力説してきた。当時はまさに占領後の西洋音楽が巷に溢れていたにも関わらずね」 凰山「先生の経験の中でも、そういった血液的美感を感じるエピソードはありますか」 野尻「あるよー。あれは小学生頃だったと思う。母に頼んでベートーベン交響楽曲全集に、チャイコフスキー交響曲全集を買って貰ったことがあるんだ」 凰山「また、凄いのを頼む小学生ですね。ところで、ベートーベンはドイツ人ですよね。運命に第九と言えば知らない人はいない。日本人には馴染みかと思いますが。さっきの話と矛盾するような気がしますが」 野尻「まぁ、まぁ、聞いてよ。最初のうちは双方の曲を聴いていたんだ。それこそ暫く聴いていたよ。ところが、後で気づくと、チャイコフスキーだけになっていたね」 凰山「ベートーベンは聞かなくなったと」 野尻「最終的には、チャイコフスキーの1フレーズ(動機)だけになったんだ。その頃には、私も中学生になっていたけどね」 凰山「あぁ、そういう経験ありますね。理屈じゃわからないけど、その1フレーズだけが気になるってこと」 野尻「こうした現象は、理屈なく聴き続けないと出てこない」 凰山「普通、親に止められますよね。1フレーズしか聴いていない時って、他人からしたらイライラしますから(笑)」 野尻「僕も言われたんだけど、言うこときかなかったねー。終いには、そこの部分だけが削れちゃってねー。ほら、昔はレコードだから」 凰山「溝が減るほどに聴いたんですか」 野尻「それこそしつこく聴いたよ。当時はそんな自分も理解できなかったんだけどね。それがキッカケかもしれないけど、手当たり次第にいろいろな音楽を聴いていたね。この時期に、ラベル作曲のボレロを聴いていたよ」 凰山「凄い中学生だな〜」 野尻「ボレロは凄かったね。聴いているうちにだよ、心のボルテージがグングン上がっちゃって〜」 凰山「あっはっはっは。いやーあの曲はきますよね」 野尻「後年になってわかったことだけど、ボレロ初演当時は評判悪かったらしいよ」 凰山「えー!そうなんですか?」 野尻「当時の巨匠は、三流キャバレーのような下劣な曲だとか言ってるよ」 凰山「酷い評価ですね」 野尻「あの曲は反復のオステナートで、徐々に楽器が増えていく奏法なんだ。人の魂を揺さぶるエッセンスの音だよ。ラベルは曲作りにおいて、自己の興味が続くことを大切にしていたそうだ。自分が感動して作った曲でない限り、他者を感動させることは出来ないとも言える。彼は管弦楽法においても才能に長けた人だったんだ」 凰山「技術的にもハイレベルだったと」 野尻「それこそ管弦楽法の魔術師でね、彼の手にかかると簡単な反復であっても音楽そのものに大きな膨らみを持つ。色々な楽器を操ってね。あの曲もそうして出来上がった」 凰山「そんなラベルのような作曲家を、日本で言えば伊福部昭氏なわけなんですか」 野尻「そうなんだ。時代は随分後になるけどね。既に話したように、氏は管弦楽法を本にまとめた」 凰山「何歳ぐらいで管弦楽法はこさえたんですかね」 野尻「30歳代だね」 凰山「うわっ、あの分厚い本を」 野尻「上巻で923ページ、下巻で590ページだよ(笑)」 凰山「しょえ〜〜〜」 野尻「そうだよ。これには思い出もあってね」 凰山「どのような?」 野尻「コンサート会場に2冊とももっていてサインをもらったんだ」 凰山「あははは、またミーハーちっくなことを」 野尻「ビックリされてね〜、横文字でさらさらと書いてくれた」 凰山「それはビックリするでしょうね。あの重さですから」 野尻「名前以外にも文が書いてあってね、自分では読めないから後で弟子に読んでもらったよ(笑)」 凰山「へー、なんて書いてあったんですか」 野尻「それが『私の友人』と書かれていたようだよ」 凰山「えー良かったじゃないですかー(笑)」 野尻「嬉しかったね〜」 凰山「ふふふ。さて、話を戻しますけど、先生は学生当時ラベルのような曲ばかり聴いていたんですか?」 野尻「ばかりってわけではないけど、手当たり次第に購入しては聴く日々だったね。学校の宿題なんてやっている場合じゃなかったよ。(笑)感動の日々が続いたねー。気づいたらこんな年だよ」 凰山「あははは。それなら当時の音楽の成績は抜群に良かったんじゃないですか?」 野尻「1だよ(笑)」 凰山「1ですか!」 野尻「僕は何一つやらないからね〜」 凰山「あははは。まー話を戻しましょう。先生のお話ですと、血液的共通性があるからこそ、無意識に感動できるものがあるということなんですね。ロシアの曲にしろスペインにしろ。そこに気づいたと。私は伊福部氏と言えば、ゴジラのテーマしかわかりませんが、先生はどうだったんですか?」 野尻「僕も同じだよ。当然だけど純音楽なんて全くわからなかった。ただ、当時の自分の中で、こんな曲があったらさぞかし感動だろうなーと、妙な感覚はあったね。何もわからないのに不思議だけど」 凰山「それが、あの曲?ですか」 野尻「そうだよ。三十過ぎてから作り始めてね。一曲だけいいのが出来たよ。当時は妻も父も褒めてくれてね。それが、結婚の悦びで、二年を費やし作曲したものなんだ」 凰山「どんなタイトルですか」 野尻「『あんたの為の曲』というんだ。(笑)もっとも、今は『妻に寄す』という、らしい題をつけたけどね。(笑)」 凰山「先生の一つの夢として、これらを管絃楽曲にしてコンサートをやりたいって仰ってましたね」 野尻「一生に一度やりたいね。自分も妻も喜ぶ為にね」 つづく
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